猫物語15 この世につまらない人間なんて!

 小さな家の女の人は、モカおばさんの家に入りました。そこは、小さな喫茶店になっていました。三つのボックス席と柏の樹のカウンターが、ありました。

 小さな家の女の人は、入口の近くのボックス席に腰を下ろしました。彼女は、店内を、ゆっくり見回しました。

 すると壁に、こんな貼り紙が、ありました。貼り紙には「お代は、あなたお話か、五百円。」と書いてありました。

 小さな家の女の人は、ポケットの中の五百円玉を握りしめました。小さな家の女の人は心の中で(私は、毎日がつまらなくて死んじゃいそう。話なんか、あるはずがない。)と思いました。

 モカおばさんは、ニコニコと笑いながら「ねえ、私は、あなたのことを何と呼べばいいの?」と小さな女の人に聞きました。

 小さな家の女の人は、小さな声で「チカコって呼んで下さい。」と答えました。モカおばさんは、さらにニッコリして「チカコサン。じゃチカチャンでいいかしら。それと子猫の名前は、なあに?」と問いました。

 チカコは、あわてて「いま、拾ったばかりで名前は、まだ、ありません。」と答えました。

 モカおばさんは、「そうなの。だったら今、名前を付けたら、どう。」とチカコに聞きました。

 チカコは、「えっ!そう、そうですネ。名前、あっ、そうだ!丸にします。女の子みたいなので丸にします。」と言って「ホウッ!」とため息をつきました。

 チカコは、目を細めて子猫の頭をなでて「丸ちゃん、丸ちゃんで良かったかな。ネ、丸ちゃん。」と言いました。

 モカおばさんは、カウンターの向こうでチカコに問いかけました。「ねえ、何を召し上りたい。もちろん、お代は、貼り紙の通りなのだけど。」モカおばさんの目がやさしく笑いました。

 チカコは、「何でもいいのですか?」とオズオズと答えました。そして、「もし、よかったら食パンにバナナの輪切りをのせてシナモンシュガーを振って焼いたのが、食べたいです。」と思いきって言いました。

 モカおばさんは、静かにチカコの注文を聞いて「お安い御用よ!」と答えました。チカコは、嬉しそうにこっくりと頷きました。

 モカおばさんは、大急ぎでシナモントーストを作りコーヒーを沸かしました。いい匂いです。これは、おいしい匂いです。

 モカおばさんは、丸には、キャットフードとミルクをお盆の上にのせてくれました。一人と一匹は、お腹がぺこぺこだったので、出されたものをぱくぱく食べました。

 チカコは、カウンターの上に五百円玉を置きました。モカおばさんは、それを見て「あらっ、あなたのお話でもいいのよ。」と言いました。

 それを聞いてチカコは、あわてて「私の話は、面白くないです。私の生活は、つまらないです。私は、つまらない人間です。」と言いました。

 モカおばさんは、「あらっ!チカチャンは自分の事をつまらない人間だと思っているの?つまらない人間なんて、この世にいないわよ。」と答えました。

 チカコは、「はあ〜!」と口を開けてびっくりしました。モカおばさんは、更に「この世につまらない人間なんていないわよ!面白くない人間もネ!」と言いました。

 そして、モカおばさんは、チカコの手のひらの上に五粒の種を置きました。モカおばさんは、「恩返しの種です。あなたの近くの土地に蒔いて下さい。あなたが大地を大切にできたら、あなたは、自分がつまらない人間じゃないとわかるでしょう。」と言ってチカコに向かってニッコリと笑いました。

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