猫物語26 小さな家の中で

日曜日がやってきました。

カラスのゴンはドキドキして眠れませんでした。昨日はトラ丸を探してトラ丸にも連絡しました。

トラ丸は「茶々ばあさんも来るの?」とびっくりです。トラ丸は「明日は、目覚めた人間にあえるんだネ!明日は僕にとって記念すべき日だ。カラスのゴンありがとう!」と言って明日を思いワクワクしました。

さあ、役者は揃った。ジャジャジャジャンとカラスのゴンが大見得をきったとき、草色の軽自動車がプーッと来て小さな家の前でピッと止まりました。

草色の軽自動車の中から、パンツスタイルのスラッとした美人が降りました。片手に大きなバスケットを持っています。中にはおばあさんの茶々が入っていそうです。

「こんにちは!野々村です。」とカナ子さんは声を張り上げました。

待っていましたとばかりに玄関の戸が開きました。チカコさんの胸には、しっかり丸が抱かれていました。

「いらっしゃい。どうぞと言っても狭いけど。」と申し訳なさそうにチカコさんは小さな声で言いました。

「家の広さなんか関係ないわ。ねえ、丸ちゃん。」とカナ子さんは、あっけらかんとしています。

丸は大きなバスケットをジーっと見つめています。「あっ、これ。悪い悪い、茶々窮屈だったわねえ。」とあわててカナ子さんは、バスケットの蓋を開けました。中から茶々が「なんで急いで開けないのよ!」と不機嫌です。

丸は、茶々を見ておじぎをしました。茶々は、丸をジロリと見て「子猫ネ。ということは、あなた新入りネ。まだ、あなた猫会議に出てないでしょ。」と顎をしゃくって喋ります。丸は、「猫会議って何ですか?」と無邪気に聞きます。

茶々は丸が猫会議を知らないと聞いて驚きました。(あの有名な猫会議を知らない。この子は猫のモグリなのか?じゃ、私の事を知らなくて道理だわ。)と茶々は思うと、今度はやさしくやさしくおばあさんを演じました。

丸はあごのしゃくりを止めた茶々を見て、面白いお婆さんを発見しました。ので、丸も可愛い孫を演じました。

チカコさんは、茶々と丸を見て「やっぱり猫は猫同士ネ。」とノンキに思っていました。茶々も丸も相手に隙を見せまいと緊張しきっています。

カナ子さんは、そんな2匹を見て「あなた達、猫どうしなのに何やってるの?」と言って持ってきた茶々の好物の缶詰を開けました。

茶々は、いつものうまい臭いがしてきたのでカナ子さんのほうをチラ見しました。(あっ、あのうまいやつ、まさか、この家の子猫にやるんじゃないわよねえ。上げたら承知しないからネ。)と茶々は思い、カナ子さんに甘えました。

「チカコさん家の猫は、丸ちゃんと言うのよネ。丸々してて可愛いネ。この缶詰めは、茶々の大好物なの。丸ちゃんにもあげてみて。」とカナ子さんはさっさと丸のお皿に開けた缶詰を取り分けています。

(嘘、嘘でしょ。あんな新入りにあげるなんて・・・)と茶々は少しわけがわからなくなりました。

それを見ていた丸は、茶々に言いました。「茶々さんいただいてもよろしいですか。茶々さんのお気持ちのままにします。」と丸は茶々に忖度して言いました。茶々は(一度あげたものを戻させたら、この茶々の名がすたるわ。)と思いやさしい声で丸に「かまいませんよ。」と言いました。

カナ子さんは茶々と丸に缶詰を取り分けると、チカコさんの用意してくれたお茶をいただきました。「いいお部屋ね、いいなあ!一人暮らしってあこがれる!」と言ってカナ子さんは部屋をクルリと見回しました。チカコさんは、いろいろ見られているみたいで心がドギマギしました。

ドギマギしているチカコさんを見てカナ子さんは、「どうしたの?お茶はおいしいし、お部屋は素晴らしいし、猫はいるし、言うことないじゃない。」と、語りかけました。

チカコさんは「でも、この部屋に一つも高いものはないわ。私、アルバイトで貧乏だもの。」とため息をつきました。

カナ子さんは「高いものがなくても平気じゃない。御殿のような家に住んでもしょうがないでしょ。それともお城のような家に住んで何人もお手伝いさんがいて何十万円もするお洋服を着て暮らしてみたいの?」と不思議そうに言いました。

チカコさんは「そこまではいらないけど、もう少しお金が欲しいかな。」と正直に言いました。

カナ子さんは「例えばここに百万円あるとして何に使う。借金があれば借金払いだけど。あなたには借金あるの?」とはっきりと聞きます。

チカコさんは(ちょっと失礼な人ネ。)と思いながら「ないです。お給料がカツカツで余裕がないんです。百万円もいらないけど月に後2、3万円欲しいです。」と、これまた大正直に答えました。

「だったら、アルバイトを辞めて正社員になれるように資格をとったら・・・。正社員になったら今より2、3万円は多いと思うよ。何か勉強したら。チカコさんの願いは自分の小さな努力で叶えられる願いよ!」とカナ子さんは相談にのりました。

チカコさんはビックリして、自分の願いはそんなに簡単なことだったのかと何も考えていなかった自分に腹が立ちました。

「何を勉強するの?」とチカコさんは身を乗りだして聞き返しました。「チカコさんは何が得意なの?」とカナ子さんも乗りかかった船で真剣です。

「字は下手だし、計算は苦手だし、接客は下手だし、得意なことがないかもしれない。あの電話の応待が苦手なのよネ。電話に出るとドキドキする。」とチカコさんは言いながらもう諦めかけていました。

すると、カナ子さんは「人のお世話はどうなの。この前一緒にいた時感じたけど、あなた邪魔にならない人だよネ。心がガチャガチャしていない。スッキリしてるよネ。」と言います。

チカコさんは、目を見張りました。

(あの時、カナ子さんはそんな事を私に対して感じていてくれたんだ。)チカコさんはちょっと感動しました。

「今、よくは解らないけどあなたにぴったりの仕事を探してみるわ。チカコさん、あなたの努力も必要だけどネ。」とカナ子さんは言い、小さく伸びをしました。

チカコさんはこんなに親身になって貰った事がなかったので、感動しました。

カナ子さんは「とにかく、私が、新しい情報を持ってくるまで、この話は私に預からせて。今日は、楽しく二人で食事でもしない?モカおばさんの所に行って。もちろん私のおごりよ。この前のお礼です。」と言いました。

「あの私は、只、あの家の窓を開けて回っただけですけど。」と申し訳なさそうにチカコさんは答えました。

「酷かったよネ。あれは死臭よ。私は近くに死に神を感じたわ。窓を開けてくれるだけで大助かりだったのよ!」とカナ子さんは助かってホッとしているようでした。

チカコさんはカナ子さんもモカおばさんを知っていると解って一緒に行くことにしました。

茶々も丸もくつろいで二匹は仲良くこれからのことを打ち合わせをしました。

外ではカラスのゴンとトンちゃんとトラ丸が待っていました。

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