チカコさんの眼が、まっ赤になりました。アルバイト先で、うどんを貰って帰ろうとした時に先輩から「あらっ!何も役にも立っていないのに貰う物は貰って帰るんだ!」と言われたのでした。
チカコさんは、役立たずという言葉が自分の頭の中でグルグル回って吐きそうになりました。チカコさんは、自分は精一杯やっていると思っていました。
でも、うどんの店屋物は重たく両手で持つことしか出来ないのです。皆、先輩達は、片手で店屋物をのせたお盆を持つことが出来ます。だから、早く仕事が進むのです。
「ウッ、グス」チカコさんは、泣きながら(やっと、見つけた働き口だし、私は、お金もないし、やめられない。)と、思いました。
ガラッとチカコさんは自分の家の玄関の戸を開けました。戸の側にいた子猫の丸はチカコさんを見て猫の蓮の話を思い出していました。
(あちゃ!)来るべきものが来た。何とかしないと、どうしよう!と丸の心はウロウロしました。
(あっ、そうだ!モカおばさんだ。)丸は、開いている玄関から一目散にモカおばさんの喫茶店を目指します。後から、家に鍵を掛けてチカコさんも丸を追いかけます。
「丸、丸、待ってー!どこに行くの?」とチカコさんは、叫びます。丸は捕まってたまるかと走ります。
チカコさんは、ハアハアゼイゼイ、丸を追いかけて気がついたらモカおばさんの喫茶店の前に来ていました。
チカコさんは、(モカおばさんの家)と書いてある看板を見上げて(そうだ!チョコレートパフェを食べてやろう!)と思いました。
お店のドアを開けます。それと同時にどこにいたのか、丸が飛びこみます。モカおばさんは、顔を上げると満面の笑みで丸とチカコさんを迎えました。「あら、あら、いらっしゃい。チカコチャンと丸。」とモカおばさんの声が店内に明るく響きます。
「あの、チョコレートパフェ出来ます。」とあわててチカコさんは、モカおばさんに聞きました。「もちろん。」とモカおばさんは答えました。
「じゃ、チョコパフェ一つお願いします。」とチカコさんは、嫌な事を忘れる為に頼みました。「甘い物を先に食べちゃって大丈夫?」とモカおばさんは、ちょっぴりチカコさんを心配して聞きました。
チカコさんは、重たくなった鞄を抱えて「あの、ここに貰ったうどん玉があるんですけど差し上げます。」と言いました。
それを聞いてモカおばさんは、「それじゃ、遠慮しないでいただくわ。そうだ!チカチャンにも鍋焼きうどんを作りましょう。かまわないでしょう。」と言いました。
鍋焼きうどんのいい匂いがお店一杯に広がります。チカコさんは、お腹が、グウと鳴りました。チカコさんは待ち切れずに鍋焼きうどんのふたを開けました。
チカコさんは、うどんをズルズルとすすりました。「うまい!」と思わずチカコさんは叫びました。叫びながらチカコさんは役立たずと言うフレーズが頭に浮かんで来て、サメザメと泣きました。
丸は、チカコさんを見上げながら(チカコさんが泣いちゃった。)と思いました。モカおばさんは、チカコさんは、心の底が浅いのだろうなと、思いました。
チカコさんは、人前で泣いたのが恥ずかしくて悔しくて、またサメザメと泣きました。
すると、あら、不思議です。チカコさんは、役立たずと言う言葉が、
胃の府の上にストンと落ちた気がしました。
チカコさんは、(役立たず)と言う言葉を自分の心の中のダメな言葉のリストに載せました。役立たずと言われるとこんなに苦しいのだから、自分は決して人には言うまいとチカコさんは決意しました。人を傷つけてはならないとチカコさんは思いました。
鍋焼きうどんをペロリと平らげたチカコさんは、モカおばさんを見て照れくさそうに笑いました。
「おや、鳴いたカラスが、もう、笑った。もう、治まったの?チカチャン、もっと、泣いてもかまわないわよ。」とモカおばさんは嬉しそうです。
チカコさんは、泣きながら考えていました。アルバイト先の先輩達みたいに自分も片手で店屋物のお盆を持てるようになろうと、両腕に筋肉をつけようと思いました。頭の中で何かがひらめこうとしていました。
丸は、モカおばさんの用意してくれたキャットフードにかぶりつきながら、一件落着と思いました。チカコさんは、いなくなった蓮を想い蓮の幸福を想いました。チカコさんは蓮の幸福を祈り抜こうと思いました。