猫物語24 ビック ママ

ガラッと玄関を開け慌てて靴を脱ぐとカナ子さんは大きな声で「おかあさん、おかあさん、おかん」と呼びました。

「何よ、何か大変なことでもあったの。」とビックママが返事をします。

ビックママは、16歳のあの時、学校を辞めさせられて野良犬のように街をほっつき歩いていたカナ子さんを保護してくれた人です。黙ってご飯を食べさせてくれて、黙ってお風呂に入れてくれて、黙ってお布団に寝かせてくれた人です。

「今日はゆっくり休んで、これからの事は休んでから相談しよう。」

それから10年。カナ子さんは、健康を取り戻しました。

色々ありました。暴力で育てられた人間が、暴力を学習せずに育つなんて不可能です。だからカナ子さんの心にも、暴力の芽が育っていました。

この暴力が、内に向かうと自殺となり、外に向かうと犯罪となります。あたたかく安全に育つことは健全の第一歩です。

あなたが誰かを虐待する時、あなたは二人の人間を

殺しているんです。そうです。虐待される私とあなた自身です。

ビックママは心的外傷からの生還者です。50年かけて自力で健康になった人でした。だからカナ子さんの暴力を受け止めて非暴力にしてくれました。

ビックママの居間には、キング牧師とマホトマ・ガンジーとネルソン・マンデラの写真が飾ってあります。ビックママの夢は、ネルソン・マンデラ氏と同じ笑顔を自分のものにすることです。非暴力・不服従の社会を築くことはビックママの悲願です。

まさしく人間を磨くものは人間です。生き辛さのど真ん中でビックママはガンジーを知り、キング牧師を知り、ネルソン・マンデラを知ったのです。

自分と同じような目に他の人をあわせてはいけないと、ビックママは思いました。

虐待(いじめも同義語です。)人間対人間の信頼をぶち壊します。自分を取り巻く社会は真っ黒になり、当事者にとって厄介なことは自分自身に対する信頼を失うことです。

ここが問題なのです。自分に対する信頼を失った人間は、自分の代わりに自分を信じてくれる人間を探します。極端に振り子が振れれば、恋愛至上主義がそうです。自分のことをいつも見ていて欲しい、思っていてほしい、それが出来ないのは、私を愛していないのだという想いを抱きます。だいたい愛するということは、相手が幸福になって欲しい、世の中に貢献していきたいと思うものです。自分に対する信頼が深ければそうなります。

でも、自分自身が信じられないと「あの眼は何、僕のこと信じていたらあんな眼はしないよね。」などと言って相手を殴るかもしれません。自分自身に対する絶対的な信頼がないばっかりに相手の中に自分自身に対する絶対的信頼を求めるのです。

ビックママは考えました。(自分を信じられなくて私は困っている。このまま気が狂う以外に生きていけないのか?では、私はどうすればいいのか?私は私のような人間を作らない為に勉強し苦しむ人と共に生きて行こう。私が支えることで救える人生があるかもしれない。きっと支えることで支えられる。そして、ゆっくり浮上しよう。浮上したらまた熟慮するんだ。そうしないと共依存のパラドックスに飲み込まれてしまう。)

ビックママは古今東西の書物を読み漁りました。彼女は寝食を忘れて、人を守り、人を励ましました。

彼女は女工さんでありました。彼女自身、差別のただ中におりました。町で本を持って歩いていると、「工場の娘でしょ。読めるの?」そんな声が飛んできました。

市民がいて、最下層に工場の娘がいました。彼女は苦しみました。そして、だんだんと悪弊に染まっていきました。自分自身が小さく小さくなっていきました。

そんな時、彼女は小百合ちゃんに出会いました。小百合ちゃんは医療ミスで重度障害者になったお子さんです。

もう、現実に押し潰されて、こんな地球消えてしまえと思いつめていた時、ビックママは小百合ちゃんの笑顔に出会いました。ピカピカの笑顔に出会いました。言葉も発せず身体も動かせず、たった畳一畳の世界の住人の彼女がビックママを見てニッコリと笑っていたのです。

ビックママは思いました。(なんで自分で1cmも動くことの出来ない彼女が笑えるの?)と。笑顔の奥に聡明そうな小百合ちゃんの瞳が光っていました。「いろいろあるでしょうが、頑張ってください。」瞳はそう語りかけていました。

ビックママはビックリしました。(小百合ちゃんが笑っている。私は私はなんて弱いんだ。こんなに弱くてどうするか!人間の無限の可能性を私は絶対諦めない。今、人間のエゴで地球が悲鳴を上げている。今、この瞬間にも変化が訪れる。この変化が一人から二人へと広がっていく。

この私が立ち上がることが大事なのだ!無名の一人、無名の一人が大事なのだ。私は諦めない。苦しんだ分だけ私は幸福になる。

私は 私達は 広島の 長崎の 核の恐ろしさを 忘れない

今日の 一歩が 明日の 一歩が 必ず 世界不戦への道に続いている。と、ビックママは深く深く決意しました。ビックママが涙したのは間違いないです。

それ以後40年、ビックママは頑張りました。心的外傷からの回復に50年の歳月をかけて健康になった時、ビックママはカナ子さんに出会いました。ビックママはカナ子さんにかつての自分を発見しました。

カナ子さんの人生を引き受けた時、ビックママは素晴らしい共生の人生を手に入れたのでした。

そして、それはビックママの恩師の言葉“永遠に負けないこと”を心で噛みしめる日々でした。

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