猫物語22 緊急会議

暗闇でお婆さんの2つの目がカッと開いていました。おばあさんは、死にたいと思いました。涙が両眼からボロボロとこぼれました。

お婆さんは、希望が見えなくなりました。お婆さんは、娘さんの笑顔と共に生きていたのです。娘さんを失った今、お婆さんは、生きる力を失ったのでした。

その頃、お婆さんの身体の中では、五臓六腑が緊急会議を開いていました。「肝君、君は、大丈夫なのかね。」と議長の腎臓の腎氏は、尋ねました。「大丈夫です。私は大丈夫です。皆さんは、どうなのですか。」と肝臓の肝君は、四臓六腑の皆を眺め渡しました。

皆は、顔色もよくツヤツヤしていました。「何の異常もありません。何の異常もないのに私達の個体田中花子は、死を切望しております。これから先私達の個体田中花子は、ゆるやかな死への行進を始めようとしております。」と、心臓の心氏は、困り果てたように言いました。

「私達の個体田中花子は、絶望しております。私達の個体田中花子は、生きる気力が、ありません。」心臓の心氏は悲しげに議長に報告しました。

「そうですか。タイムリミットは、24時間です。ここに虹の精君にお手伝いいただき私達の個体田中花子の希望を探していただきましょう。」というなり、議長は床を3回コツコツと叩き「イノチハタカラ。」と虹の精君を呼びだしました。

「お呼びですか。御用を何なりとお申し付け下さい。」と、虹の精君は丁寧に申しました。「かたじけない。私達の個体田中花子の希望を探していただきたい。タイムリミットは24時間です。」と議長の腎臓の腎氏も丁重に申しました。

「もちろんです。希望は、案外そこらへんに転がっているかもしれません。では、さっそく仕事にかからせていただきます。」と言うや虹の精は消えてしまいました。

議長の腎臓の腎氏は、皆に申しました。

「私が、オーバーヒートすることなく稼働する時間は、24時間と思います。私が弱りますれば後の四臓六腑は、徐々に弱って参ります。皆様方におかれましては、私達の個体田中花子は希望に出会えないことも、あろうかと思われます。どうか、あわてることなく最後の時を待って下さい。」と。

肝臓の肝君は、おもむろに「その24時間は伸ばせませんか?伸ばせるとしたらどうすればよろしいですか?議長!」と、議長の腎臓の腎氏に質問しました。

「水分ですな。たっぷりの水分の補給があれば私のオーバーヒートは避けられます。さすれば、皆さんも元気でいられます。」と議長の腎臓の腎氏は答えました。

「私達の個体田中花子が水を飲めばいいのですか?議長」と肝臓の肝君は、簡単に話をまとめました。

「そうです。私達の個体田中花子が、水を飲んでくれさえしたら私達は、緊急会議を開くこともなかったわけでして・・・。私達の個体田中花子は、もう、24時間も水分を取っておりません。私達の個体田中花子は、水を飲むことを止めたのであります。後は虹の精君のがんばりを待つまでです。これ以上、水分が入らなければ体温は上ります。私達は、焼け死なねばなりません。そうなりましても皆様におかれましては取り乱されませんようお願いいたします。」と厳かに議長の腎臓の腎氏は、申しました。

ドバッ、ドドド水が奔流となってお婆さんの体内を流れました。お婆さんは、娘に扮した虹の精に抱かれて嬉しそうにコップの水を飲みほしました。ゴクゴクゴックン「私の可愛い娘、このお水は、何ておいしいんでしょう。」とお婆さんは、ウットリして言いました。

「議長!議長!今、私達の個体田中花子に水分の補給がありました。これで、しばらくは臓器不全には陥りません。議長、良かったですネ!」と赤血球のピン子さんは嬉しそうです。

議長の腎臓の腎氏は晴れ晴れと「本当に良かったです。でも、ここからが本番です。私達の個体田中花子は、絶望を乗り越えなければなりません。」と申しました。

 

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