光の中を

おばあさんが
家の中を見わたして
ハテナ? トイレ ハ ドコダ。

おばあさんの頭の中を
ハテナ? ハテナ? が
グルグル 回りました

それからの おばあさんは
布団の中では
目を 覚ましては
ハテナ? ハテナ? のオンパレードに
心が しぼんで いきました

おばあさんは 娘さんに
「何も わからなくなった。」と 告げました

娘さんは
来るべきものが 来たと
思いました

娘さんの まわりの人は
異口同音に
「認知症は 治らない。
絶対に 治らない。
悪くなることは あっても
良くなることは ない。
覚悟しなさい。」
と 断言しました。

その言葉を 聴いて
娘さんは 思いました。
「本当に そうだろうか?
認知症は
100%医学で 科学で
解明されているのか?
そうじゃないだろう。
完全に 解明されていないと言うことは
一分の隙が あるということだ
その一分の隙に
光は 見いだせないのか?
この世に 不可能なままで
終わることなど あるはずがない
あるのは
人の心の限界だけだ
私に
この一分の隙を 開いて
母のよろこびにする
エネルギーが
あるか どうかだ。
私は やってやる。
私の生命から 噴きあげる炎で
母の生命に 火を つけてやる!」

娘さんは
自分の 中から
わき上がってくる力を
信じることに しました。

そして 娘さんは
おばあさんに
言いました。
「母さん 全部忘れていいよ!
私が 全部 覚えている
だから 困った事は 起きない。
母さん 大丈夫だよ!」

おばあさんは
娘さんの 言葉が わかりました。
いや それ以上に
娘さんの 笑顔に
安心しました。

娘さんは 行動しました。

まず
歩き方を 忘れたおばあさんの
両手を 取って
右左右左と一緒に歩きました。
歩きだすと おばあさんの足が
歩き方を 思いだしました。

娘さんは
あれや これやと がんばりました。
ごはんの食べ方
顔の洗い方
いきんでウンチを出すこと
おばあさんの
ハテナマークは ふえ続けます。

娘さんは
たくさんの失敗をし
少しの成功を得ました

でも そうやって
娘さんが
いつも おばあさんに
関わっていると
おばあさんは
だんだん
元気に なりました。

それは
娘さんが
楽しく楽しく 働いたからです。

面白くて 面白くて
娘さんは
認知症の 一分の隙に
喜びを 見いだしたのです。

毎朝
娘さんは
おばあさんに 尋ねます。
「今日の気分は?」
おばあさんは 答えます。
「最高よ!」

娘さんも ニッコリと
おばあさんも ニッコリと
認知症の闇の中を

あかりを 灯して
二人は 歩きつづけているのです。

やがて この道の先に
やさしい世界が 続くことを 信じて
世界不戦への潮流に
参加していることを 信じて
信じて 歩き続けているのです。