その頃、氷の大広間では木枯らしの姉が深々とひざまづいておりました。しばらくすると正面の壁一面に大王の姿が映りました。
「北の氷の国ではトナカイが集団で百頭も死んだよ!また、南半球では森林が何万も燃えておる。全部、地球の温暖化が原因じゃないか。なあ、木枯らしの姉君、これでも人間を信じられるか。
自国第一主義とかいって困っている人をいじめ、地球の温暖化をフェイクニュースなどと言って深刻に受け止めようともしない人間を信じられるか!なあ、木枯らしの姉君。
人間は愚かにも、自然を征服しようなどとおごった考えに突き動かされて地球をここまで破壊したのだ!
欲望を便利さに変えて、欲望を快適さに変えて、それに先頃ではAIで戦略兵器を作ろうとしておる。これからは、人間が表に出ずに機械が戦争すると言っておるが、破壊するそこにおるのは人間ぞ。人殺しをやることには、変わりがないぞ!なあ、木枯らしの姉君よ。
それでもそなたは人間を信じるのか!」
と氷の大王は、穏やかにゆっくりと申しました。
「大王さま、愚かなのは一握りの人間です。無垢の民は、優秀でございます。必死の一人一人が今、立ち上がろうとしています。立ち上がる人の後ろには、そこに続く無垢の民がおります。
大王さま、私が思いますに人は育っております。不億不屈の人材は、育っております。だから、待って下さい。必ずや、無垢の民の中に必死の一人がいます。その一人が、数多の必死の一人を連れてきます。そう、私は確信します。
大王さま、きっと、人間の歴史は変わります。戦争時々休憩の平和から恒久の平和へと変わります。原子爆弾の抑止力のゲームの支流から核廃絶の本流へと移行します。
私は思うのですが、自己の憤怒を超えた人間の波がこの地球を覆う日が、正直者が泣かないでいい世の中が、誰人も置き去りにしない世のしくみが、必ず作られます。
あの水俣の地に響いた哀音で、この地球を覆ってはなりません。水俣の悲しみを日本の民は知っています。だからこそ環境保全の解決の英知を持っているはずです。
日本の民は広島の、長崎の、悲しみを、苦しみを知っています。だからこそ、この国の民は核廃絶の先頭に立てるはずです。
国を変えるのは、一国の大統領でも総理大臣でもありません。国を変えるのは民衆です。権力者が、どんなに民衆の頭を押さえつけても、平和への流れは止められません。戦争の世紀から生命の世紀へと流れます。
大王さま!民衆を苛めて権力者は私腹を肥やしてきました。苛められた民衆が暴徒と化したからです。権力者はそれらを理由に彼らを抹殺しました。
大王さま、今無垢の民は賢く変革の道を歩き始めました。
憎しみを慈しみに変えて、苦しみを英知に変えて、たくましく立ち上がろうとしています。
この地球上の人間が手に手を携えて自己の壁を超えて社会の問題に立ち向かおうとしています。
大王さま、私は人間を信じます。一人の人間の偉大な人間革命のドラマに期待します。一握りの人間ではなく、無数の無名の人々の頭上にダイヤモンドのような発光が見られましょう。
大王さま、人間は、変わります。苛められて暴徒化していた民衆が憎しみを花束に変えたのです。
(苛めたければ苛めよ!私は負けない!私はこの世に悲惨の二字を許さない!私は、私達は、苦しみや悲しみをかたつむりの速度で喜びに変えてみせよう!)と、私には民の声が聞こえます。
大王さま、踊りだしたる無垢の民のこの民衆の底力は、やがてミサイルに花綱を、核のボタンを永久凍土へと変えましょう。必死の一人は戦い抜いて行動してまいりましょう。
大王さま、私は人間を信じます。なぜならあの地にもこの地にも憤怒の川を乗り越えた人間が増え続けているのです。
止まれ!いまや、人間は過去の愚かな暴徒ではありません。人間は生命の為に知恵を使い自然との共存の為に英知をふりしぼりましょう。平和が不可能であるはずがありません。
一部の武器商人の思惑でこの地球を動かせる時代は終わりました。
どんな迫害にも、どんな障害にも屈せぬ無垢の民が大いなる喜びの歌を歌いながら不可能を可能にする時、平和は足下にありましょう。」と木枯らしの姉は、一気に堂々と演説しました。
「なんと!人間が変わり始めていると申すのか!ここまで温暖化で地球を駄目にしている人間がかい。」大王は目を白黒しました。
「大王さま、愚かなのは一部の指導者です。民衆を道具と思っている人々です。いま無名の人々の波の中で私は多くの麗しい光景を見ます。
20年間の体制の抑圧にも耐え復活した彼女、30年間の不遇にも耐え雄々しく立ち上がった彼、前科の前歴にも負けず良き市民として世界平和の為に立ち上がった若者がいます。
大王さま、今、人間の歌が聞こえます。憎しみを慈しみに変えて、苦しみを英知に変えて、無名の人々の人列が、この地球を取り巻く日も近いかと思います。
私は人間を信じます。権力者達は民衆を苛めて憎しみを生み出し、憎しみのエネルギーで時代を動かしてきました。
今、その流れが変わろうとしています。憎しみは慈しみに、苦しみは英知に変えられております。
人間は近い日、武器を持つ手に花束を、ギターを持ちましょう。壮大な喜びの序曲が無名の人々の中から聞こえてまいりましょう。」と木枯らしの姉は静かに語りました。
大王は目を丸くして「ウ、ムムム」と唸るばかりです。「本当にそのような事になっているのか?」とやっと大王は心の声を振り絞りました。
「一人の必死の人間が存在した時、その後に一人、二人と人々は続きましょう。権力者は、76億の民を捕まえますか。それは不可能にございます。とち狂って核のボタンを押しますか。その権力者も民衆の喜びの声に飲み込まれてまいりましょう。そして互いに手を取りあいましょう。と木枯らしの姉は厳かに言いました。
大王はもはやここまでとなった面持ちで、木枯らしの姉に聞きました。「それでは私は、何をすれば良いのかな?」と。木枯らしの姉は素早く大王に言いました。「竜王さまに合わせてください。」
それを聞いて大王は「竜王に会いたいとな!竜王はこの地球を人間が壊し続けるなら、私が人間を罰してやると暴れて回っておるぞ。」と大王は呟くようにささやきました。
「そうなのです。竜王さまを止めなければなりません。土砂崩れや洪水で、善良な民がことごとく死んでしまいます。人間達の中に必死の一人が存在することをお知らせしなければなりません。大王さま、私を竜王さまに会わせて下さい。」
と、木枯らしの姉は大王に懇願しました。