三年後のある日、難民キャンプで日焼けした青年がきびきび働いている。トムだ。そこへパラパラと黒い人影が群がった。その人影は、トムの両脇をかかえると車の中に連れ込んだ。リムジンバスが出発した。
(遅れてしまった。)とフランクが向こうから走ってくる。広場には、1本のホウキとトムの携帯電話が落ちている。(何が起こったのだ!)とフランクがキョロキョロしている。
暗 転
カーテンが揺れる。「まるで、ドロボウだな!」と言ってフランクが現れた。「フランク、キミも聞いたろう。僕はABコンシェルンの跡取り息子だ。世界をシェアする兵器産業の総師の跡取り息子だ。理想は世界平和。現実は戦争仕掛け人だ。
いま、第三世界は戦争の火種があちこちに散らばっている。その火種を作ったのはあの人だ。ボクの父親だ。いつもこの地球のどこかで戦争があるように政治的に経済的に計画実行し続けてきた。人の不幸の上に巨万の富を築いたんだよ。ボクはその跡取り息子なんだ。ボクは生きている価値のない人間なんだよ。」とトムが吐き捨てるように言った。
そこまで聞いたときフランクが顔を上げた。
「今、なんて言った?」とフランクは口を切った。
トムはびっくりして今、言った言葉を繰り返した。「生きている価値がない。」と。「誰がだい。」とフランクが怒って聞き返した。「ボクが生きている価値がないと言っているんだ!」とトムは絶叫した。
「この世に価値のない生命なんてないんだ。君のお父さんだって大切な生命なんだ。世界をシェアする兵器産業の息子に生まれたんだったら君はお父さんを救ってあげなくっちゃいけない。」と、フランクはトムに言葉を投げかけた。
「でも、ボクはもうすぐ幽閉される。そして、病死と言われるんだ。ボクはボクは生まれてくるんじゃなかったよ。」とトムは嘆きました。それを聞いてフランクは、烈火の如く怒った。
「トム、いい加減にしろよ!生まれてきて悪い人間なんて1人もいないんだ。一番最悪な事はそんなふうに自分に負け自滅してしまうことだ。結局は人間は自分自身に負けて滅んでいくのだ。
他者に滅ぼされるんじゃない。自分で滅んでいくんだ。この地球だって人間の貪欲を克服できなかったら滅んでいくだろう。地球の温暖化は人間の手で作り出したものだ。人間が変わらない限り前進は無いのだ。
トム、幽閉されてもこの広い城の中だ。図書室もある。この際だ。古今東西の良書を読み尽くせ!ソクラテスとプラトンと友達になるんだ。
少し外に出て畑を作るんだ。自分の食べる野菜は自分で作れよ。きっと、それは大自然の息吹と共に君に大いなる恵みをもたらすだろう!料理だって始めればいい。楽しいよ。君に関する全ての人のために働くんだ。それが君の将軍学だ。
周りの人間は遠巻きにして君を見ている。君が自滅していく有様をだ。だからこそ逆転のゲームを始めようじゃないか!どうしたら、これ以上不幸にならないかを考えよう。そして、この状況をまるごと生かす道を!知恵を絞り出せ!足下に泉はある。君が真の強い人間になった時、全宇宙が味方する。
トム、共にベートーヴェンの歓喜の歌を唄おうじゃないか。もしも途上で、この生命果てるとも、この意思は、この想いは誰も止められない。不撓不屈の人間が現れたら打ち殺せばいいと思っている浅はかな彼等、でも彼等も人間なのだ。オレは彼等を人間共和の世界に引きずりこむ。共に肩を組みあいウォッカを飲みあい「オレはあなたの幸福が気になって仕方がないよ。オレはあなたの幸福を祈り続けるよ!」とオレは彼等にささやくよ。
トム、敵を愛せずして世界平和は無い。これは困難な作業だ。今まで人類が行動して失敗し続けてきた心の戦だ。かの東洋のアシッカ大王はこの理想を実現した。オレは東洋の法華経にすべての解決の鍵が秘し沈められていると思っている。
トム、オレ達は生き抜くぞ!どんなに地の底に叩きつけられてもオレは希望を胸に這い上がる。オレの一念は今や、地球をがんじがらめだ。
トム、その身がどんなに幽閉されてもその心は全宇宙に広がっていくさ。その時にこそ、全宇宙は君の味方をするよ!
人間が欲望から解き放たれて利他の精神に生きる時、この地球は青く燦然と輝くだろう。麗しい世界が築かれるだろう。諸葛亮、死してなお軍馬を走らすだ。オレもオレの一念でこの地球を守りきってみせる。」と、フランクは言葉を閉じた。
トムは天と地がひっくり返った。目ん玉が飛び出るほどビックリした。「幽閉はボクの人生に起きた最高の出来事かもしれない。いや、最低にするのも最高にするのもボクの生き方次第だ。ボクはやるぞ!ボクはボクの運命に負けてなんかいられない。不遇の時こそ修養するのだ。
この館の中でボクは最高の将軍学を実践しよう。足りないものを数えるより足りぬものに感謝しよう。今日からは明日からはすべてのことに鍛錬だ。関わってくれるすべての人を生かしきろう。幸福にするのだ。それがボクの責任だ!
この身は、荒ぶれた銃口の前に立たされてもボクは悠然と全宇宙を味方にして堂々と立ってやろう。その時、我が一念は全宇宙を駆け巡るだろう。
ボクは暴力に屈しない。ボクは悪戦苦闘を突き抜けて全宇宙を味方にしてみせよう。ボクは暴力に断じて屈しない。ボクは強くなって、善人の悲しい歴史に終止符を打つのだ。
ボクは創価三代に続く。横暴な権力は許さない。ボクの歩むステップは軽く軽く軽やかに進む。
狙撃犯よ!暴力よ!死よ!
その 銃口は いつか 自分の手で 自分に向けられる。
友よ!
悲しい歴史はもう、やめよう。
地球が滅びようとしている今
戦争をしている時間などないのだ。
打たれても 打たれても
ボクは 立ち上がり
ボクは 歩き続けよう!
友よ!
ボク達は偉大な先輩の足跡を忘れない。
あなたを 失っても
ボク達は あなたの志を 忘れない。
と、トムは我が心に固く誓い立ち上がった。
ほどなくトムは幽閉された。
トムの話し相手は猫のララだけになった。