猫物語41 君の一念が世界を動かす!

 チャンは扉の前でガタガタしていた。ここは国連本部の会議室。今日は、トップの最終面接だ。「フーウッ」とチャンは大きく深呼吸をした。(オレは何でオタオタしているんだ。オレも人間、相手も人間、とって喰われるわけじゃなし、チャンしっかりしろ!中国三千年の歴史がお前のうしろだてだ。)とチャンは自分で自分を鼓舞した。

 「ミスター・チャン入って下さい。ミスター・チャンいらっしゃいますか。」と受付の女性が呼んでいる。「ハイ」とチャンは大急ぎで立ち上がった。チャンはあわててすねを椅子にぶつける。「痛!」とチャンは声を上げた。受付の女性がクスリと笑った。

 チャンはドアを開けると深々とおじぎをした。「チャンさんかね。まあ、かけて下さい。」と流暢な英語が聞こえる。落ち着いてと思いながら、ゆっくりと指し示された椅子に腰を下ろした。

 「大学はハーバードだね。」とチャンは尋ねられて「国費留学です。」と答えた。「優秀なんだね。生きることに必死だったわけだ。」と目の前の初老の紳士は目を細めた。「学問するしか、底辺の人間は這い上がれません。」とちょっとムッとしてチャンは答えた。「君は底辺の人間かね?」と初老の紳士はチャンに聞いた。「そのように自分は思っています。また、底辺の人間の存在を忘れたら人間としては終りだと思っています。」と答えた。

 「ミスター・チャン、あなたの尊敬している人は誰ですか?」と初老の紳士は尋ねた。周先生です。今は亡き元周恩来総理と祖父です。」とチャンは答えた。「今は亡き周総理ですか。人民の父と言われた方ですネ。」と初老の紳士は微笑んだ。

 「御存知ですか?周先生の長征のこぼれ話を。あの1万2,500Kは長かったです。最後のほうは食料も尽きて紅軍は息も絶え絶えだったそうです。紅軍の食料は尽きてしまいました。唯一あったのが周先生の食料でした。その食料を最後の一粒まで皆に配ったのです。祖父は言っていました。「あれが人間ぞ!あれが本物の人間ぞ!ワシもかくありたいものじゃ!なあ、チャン、本物に本物の人間になるのだぞ!」と言って祖父は私の頭を撫でました。」と、チャンは話をした。その言葉を聞いて初老の紳士は更にニッコリと笑った。

 初老の紳士は口を開いた。「ミスター・チャン、君に決まりだ。君のお祖父さんに乾杯だ。」と初老の紳士は言った。チャンはわけがわからずハテナマークを身体中から発信した。「私の秘書は君に決まりだ。」と、もう一度初老の紳士は言った。「あっ、あっ、ありがとうございます。」とチャンは震える声で言った。

 チャンは呆然とした。自分の人生の回転の速さにクラクラした。(明日からは、いや今日からはオレの根底が変わる。オレの国の魯迅先生は民衆を賢明にするために医者から作家になった。オレは使命を果たす為に走り抜こう!戦うぞ!オレは中国人である前に人間だ。オレは本物の人間になる為に踏ん張るぞ。)とチャンは深く決意した。

 「これからの国連は激動期に突入する。恒久平和の骨組みを築き上げねばならない。もし、君に恋人がいるのなら人類と共に生きる喜びを共有しといてほしい。君は忙しくなる。人間が真に人間になる戦を始めるのだ。フランクです。よろしく!」とフランクは手を差し出した。チャンは、フランクに圧倒されながらガッチリ握手した。

 フランクは思った。(次の青年は、育っている。確実に!何も恐れるものはない。着実に生活者の一歩を進めるのだ。自分の一念を信じること。世界を平和にせずにおくものかという確信を強靭に鍛えるのだ。

 きっと、トムも幽閉の身でも本物の人間であり続けようと努力しているはずだ。地球は回転する。温暖化も貧困も教育もよい方向に回転する。いや、いい方向に回転させるのだ。誰かがやるのではない。自分がやるのだ。我が生命の力を信じよう。民衆を信じよう!共にスクラムを組んで世界不戦の世の中を作るのだ。

 平和を語るとき、多くの言葉より一杯のシチューのほうが、力がある。私はこの天を支える女性の力を信じよう。目覚めた女性の存在を私は深く信じる。人材よ!羽ばたけ!雲の如く、わき起これ!)とフランクは心に思い描いた。

 遠くに人間の喧騒が響く。その中を颯爽と歩くトムが見えた。それはトムの人間の人間たるドラマの開始だ。

 「ロバート、お腹が空かないかい?」と車に乗るなりトムは言った。ロバートはゴソゴソと助手席に置いてある紙袋からフランスパンを取り出した。「ここにフランスパンがあります。私のアパートメントにはシチューもあります。今からではレストランの予約は無理でしょう。私のアパートメントによりましょう。」とロバートは言い、車のハンドルを切った。

 こじんまりとしたアパートメントに温かい湯気が立った。ロバートは「狭くてすいません。」と謝りながら温かいシチューを深皿についだ。「ワインもあります。飲まれますか?」とロバートはトムに聞いた。「いや、ワインはいいよ。温かいシチューとフランスパンで充分だ。」と静かな清潔な部屋を眺めながらトムは更に「家族は?」と心配して聞いた。

 「ミスター・スカイ様がお倒れになったのでこのアパートメントを借りました。家族は、郊外に住んでおります。私一人、単身赴任をしています。トム様の身に起きる異変に備えておそばでお仕えしようと思っておりました。」と、ロバートはトムに対する想いを口にした。

 「ありがとう!希望を胸に生き続けてよかったよ。私もこれで古い友人に胸をはって会えるよ!」とトムは答えた。「古い友人ですか。トム様にそのような方とは初耳です。もし、よろしければ詳しくお聞かせ下さい!」とロバートは熱心にトムに頼みこんだ。トムはフランクとの一部始終を話して聞かせた。

 「トム様、私の恩人もフランクと申します。もしや、同一人物ではありませんか?」とロバートは嬉しくて嬉しくてトムの話に口をはさんだ。「君の恩人もフランクと言うのですか?」とトムは大変驚き、フランクのクルクルした天然のマキ毛を思いだした。(我が友は元気らしい。問題は山積みだ。気の遠くなるほどの問題だ。それらの問題を前にもう、だめだ。無理だ。手遅れだとギブアップするのか!それでも、私はやるぞと立ち上がるのか!トム、どっちだ!どっちなんだ!私は立ち上がるぞ!問題がどこまで果てしなく続こうとも私の一念は、ゆるがない!祈って祈って私は、この生命の火を燃やしてみせる。

 この地球の存亡は我が一念にかかっている。どんな偉業も一人から始まる。私は、あきらめない。私は負けない。なぜなら我が師匠は、私の人生をじーっと見てくれている。私は師に応えたい。私は羊1000匹には、ならない。獅子となって民衆の苦しみに同苦しよう。私は師に喜んで欲しい。私は、あなたの弟子としてキング牧師や、マホトマ・ガンジーに連なる人列の最前線に躍り出る。

 幾十億の私が立ち上がるとき地球は命運を変え、慈雨の雨を降らすだろう。その日を目指して私はやるぞ!

 本来、仏として生れた我等、この世の使命を果たし、久遠の人列に、立ちもどろう!

 さあ、あなたも君も、一生活者として自らの闇を叩き破って未来のドラを鳴らそう!さあ、あなたよ!君よ!壮れいな人生の交響曲は、鳴り響く!さあ、あなたよ!君よ!さあ、走り給え!この地球の命運を変えるべく。あなたの君の課題を乗り越え給え!

 さあ、あなたよ!君よ!誰に何を言われても私達の荘厳な魂の人列に彼等はひれ伏すだろう。師匠は見ている。どこまで自らの無慈悲を私達がどう乗り越えてゆくかを微笑しながら見ている。さあ、あなたよ!君よ!満面の笑顔で答えよう!「何が起ころうと私に任せて下さい!」と胸をはろう。遠くの峰に師の笑顔が見える。

 さあ、あなたよ!君よ!今日も臆せず一生活者としての戦いを開始しよう!そして、その一歩が岩をも砕く我が一念であることを喜ぼう!さあ、喜んで喜んで私達は善美の陳列を組んで行こう!

 さあ、あなたよ!君よ!問題は果てしないほど山積みだ!さあ、あなたよ!君よ!その山を楽しい歌を唄いながら走って行こう。さあ、あなたよ!君よ!我が生命の力は無限だ!その勝鬨でこの地球を埋めつくそう!」とトムは恐く屹立として前方を見据えた。それはまるでこの地球の番人のようであった。

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