猫物語16 モカおばさんの事(1)

モカおばさんは、椅子に腰かけるとエプロンのポケットに手を突っ込みました。

手をポケットから出すと指の先に紫の糸が、見えました。

モカおばさんは、その糸をバアーッと空間に広げました。オドロキです。紫の糸は、風船の行列になりました。

その中に金色の風船が、ありました。モカおばさんは、金色の風船を手にとって愛しそうに眺めました。

そして、モカおばさんは金色の風船の口を開けました。すると、声と同時に文字が風船の口から出てきました。

青年の声が、響きます。

「僕は、義父を愛しています。

義父が、僕の本当の父を死に追いやった!

もう、そんな事は、どうでもいいんです!

僕は、義父を愛しています。」

モカおばさんは、急いで風船の中に青年の声を閉じ込めました。モカおばさんの瞳が、思慮深く光りました。

モカおばさんは、脇腹をさすりました。そこには、こんもりとしっかりと固いしこりがありました。モカおばさんは、「私は、後どれくらい生きられるんだろう?私は、この青年みたいに、ガンを愛せないわ。」と呟きました。それから、ふーっとため息をつきました。

モカおばさんは、考えます。

「それにしても、私は、どう生きればいいのか?このままでは、私もチカチャンの言うつまらない人間に成り下がるわ。まず、ものごとを整理すること。私の身体には、ガン細胞の塊が、3つある。進行してる時は、痛みがあった。進行が、止まった今、痛みはない。これから、劇的に、この状態を突破できるのは、どういう私の心の変化だろう。それが、不安や恐怖でないことは、よくわかる。ガンになるということは、どういうことか?人間には、37兆個の細胞がある。体液が弱アルカリ性で維持されれば正常細胞は元気になる。体液が酸性化し続ければ正常細胞がガン化する。この体液の変化は食べものだけではない。心のあり方もかかわっているはずだ!」モカおばさんは、そう思いあたった時、心が明るくなりました。

モカおばさんは、更に考えます。

「そうだ!心が大事なんだ!37兆個の正常細胞の一部がガン細胞になるのには、今までの自分の行動が関係しているのではないだろうか。

私の場合は、あの日。

何の落ち度もなく

魔法界を追放された日。

心は、憎しみで真っ黒になって

怒りで心は満杯になったわ。

あの怒りを私の細胞の一部が、受け止めてくれたんじゃないだろうか。

あの怒りが私の細胞を傷つけたんじゃないだろうか。その怒りを受け止めて苦しんだ細胞が、ガン細胞になったんじゃないだろうか。

ならば、心の転換は、体液の変換に影響があるはずだ。先はある。自分で産み出したガン細胞ならばまだ、先はある。未来はある。」とモカおばさんは、力強く立ち上がりました。

そして、金色の風船を桜チップに止めて握り、大地を「生命はタカラ」と三度トントンとノックしました。

モカおばさんの前に虹のトンネルの精が現れました。虹のトンネルの精は「あら、こんにちわ!モカおばさん、何か御用でしょうか。」と、ていねいに申しました。モカおばさんは、「この風船を双子の木枯らしの姉さんのほうに届けてほしいの。」と頼みました。虹のトンネルの精は桜のチップに付いた金色の風船を丁重に受けとりました。虹のトンネルの精は「はい、かしこまりました。モカおばさん、大切にお届けいたします。」と言うや否や消えてしまいました。

 

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