猫物語4 小さな家の住人

バタバタと戸が開きました。
そして「何、誰?」と声がしました。
子猫はびっくりして黙ってしまいました。
すると「誰もいないねぇ」とまた声が聞こえて
バタバタと戸が閉まり電気も消えてしまいました。
子猫はまた、まっ黒な闇の中に取り残されました。
「どうしよう。」と子猫は、思いました。
でも子猫は、もう一度鳴く勇気はありませんでした。
子猫はとにかくどこかに泊まらなければなりません。
子猫は小さな家の横の空地に、こんもりしたよもぎの森を見つけました。
子猫はよもぎの森の中に入っていきました。
子猫はそのよもぎの根元に身を横たえました。

よもぎの森はすっかり子猫の姿を隠してくれました。
だから子猫は安心してスヤスヤ眠りました。
翌朝、子猫はおなかを空かせて目を覚ましました。
目をパッチリ開けて子猫は、また「どうしよう。」と思いました。

子猫はよもぎの森を出て、小さな家の前に行ってみました。
子猫はそろりそろしと小さな家の玄関に近づきました。

と、突然玄関の戸がガラリと開きました。

子猫は小さな家の女の人と目があいました。
そのとたん、女の人は「器量わる。」とさけびました。
子猫はびっくりして鳴きました。

さらに女の人は「あっ、声も悪!」とさけびました。
子猫は、声がつぶれていたのです。
女の人は思いました。
(もし、飼うとしたら6ヶ月後に避妊の手術もあるし、2万円なんてお金、私には無理!無理!とうてい無理!ごめんないさい。)
女の人は子猫の前で玄関の戸をぴしゃりと閉めました。

子猫は唖然としました。もうどうしていいかわかりません。
子猫は泣くこともできずに立ちすくみました。

すると又、玄関の戸がするすると開いて女の人がお盆を置きました。
お盆の上にはお皿いっぱいのキャットフードとカップにミルクと水がありました。

女の人は子猫を見て
「飼ってあげられないけどごめんネ。
これでも食べてがんばって。」
とやさしく言いました。

子猫は思わずキャッチフードに飛びつき、ガツガツと食べました。
子猫が食べはじめたのを見て、女の人は静かに玄関の戸を閉めました。