チカコさんは、ギュッと丸を抱きしめました。丸は、気持ちよくてウットリしました。
チカコさんは丸から立ちのぼる匂いを臭いなと思いました。「家に帰ったらフワフワシャンプーをしてあげよう!そして赤い首輪つけて可愛くしよう!ガリガリだけど、その内にふっくらするわ。」とチカコさんは、思いながら丸をナデナデしました。
家に帰ってきました。ガラリと玄関を開けると猫の蓮がすごい顔をして待っています。「ニャア ニャア ニャー」蓮は、すごい声で鳴いています。猫語で「どこに行っていたのよ!私を置いて!」と、いうこと
でしょうか。
チカコさんは、「ごめん、ごめん。丸を追いかけていたら不思議な喫茶店を見つけちゃって。」(すっかり蓮の事を忘れていたわ。)と心の中で舌を出しました。
猫の蓮は、「この美しい私を置いてどこに行ってたのよ!おまけに子猫を連れてきて!と、ギロリと、チカコさんを睨みました。
「あっ!この子ね。名前は、丸。拾っちゃった。可哀想だったから、許してネ、ネッ。」とチカコさんは、蓮に甘えた声で言いました。蓮は、(お金もないのにこの人間は、何を考えているのかしら?)と思いました。今でさえカツカツの生活にあることは、チカコさんのくたびれた靴を見ればわかります。
チカコさんは、うどん屋さんでアルバイトをしています。時給680円のアルバイトです。フルタイムで働いても月13万6千円です。週一のお休みでもです。でも、シフト制なので月10万円がやっとです。
家賃が、いらないので助かっていますが、税金、電気代、ガス代、置き薬代、浄化槽の管理費等が、食べなくても2万5千円程かかります。月々7万5千円が彼女の生活費です。
「病気もケガもできないわ。」チカコさんは、そう言ってちょっとへこむのですが、次の瞬間には、(お金が、何さ!)と思い元気になるのでした。
まず、7万5千円から5千円を引いてとチカコさんは、計算しました。
「4月までには、3万円貯まるわ。これで猫の避妊の手術費用は、まかなえる。それをそのまま5千円積み立てにしよう。続けばいいけど。まあ、がんばろう!」とチカコさんは決意しました。
でも、これは、フニャフニャの決意です。チカコさんは、嫌な事があると甘い物のドカ食いをやめられないのです。心の底が浅くて悲しみや苦しみを留められないのです。だから、7万5千円なんか、あっという間になくなってしまうのです。
お給料で、チカコさんは1ヶ月分の人間と猫の必需品を買います。そこに1ヶ月分の温泉代4千円で温泉の回数券を買います。チカコさんの家には、お風呂がありません。1回2百円の回数券がチカコさんの風呂代です。
後一ヶ月分の米、みそ、しょう油、冷凍した魚肉、牛乳、地産地消の卵、野菜を買います。ここへトイレットペーパーや洗剤やらが入ります。大ざっぱに5万円を見ています。
残りの2万円程は、ストレスが溜まると、ボロボロ出ていってしまうのです。冠婚葬祭もばかになりません。
チカコさんは、お金がない=不幸のサイクルになっていました。チカコさんは、私がこんなにつまんないのは、お金がないからだと思っていました。
「お金が、あったら美しく着飾ってお出かけしよう!ちょっと、顔にはそばかすが、あるけど高い化粧品を使えば隠れるわ」と思っていました。きっと、ストレスもなくなってどか食いもなくなってしまうと思っていました。
でも、お金で解決できることはわずかです。また、お金が、あるぶんどか食いの量が増えます。イコール太ります。
お金は、何の解決にもなりません。チカコさんには、心の底を掘るスコップが必要なのです。チカコさんは、モカおばさんのくれた恩返しの種をじっと見つめました。
チカコさんは、「この種が私を幸福にしてくれるかもしれない。」と勝手に思いました。
でも、幸福な生活は、自分の力で築きあげるものです。その事実をおめでたいチカコさんは、知りませんでした。